大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)3941号 判決

原告

財団法人日本消費者協会

右代表者理事

杉原栄次郎

右訴訟代理人弁護士

白井正明

白井典子

被告

甲田乙子

主文

被告は、原告の別紙物件目録記載の事務所に立入るなどして同事務所内における原告の業務を妨害してはならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

被告はもと原告の職員であったところ、原告は被告に対し、懲戒解雇処分に処したところ、被告は、この処分は不当であるとして原告に抗議行動等に及んでいる。

本件は、原告が被告に対し、被告が原告の事務所に立入る等して原告の業務の妨害をしていると主張して、右事務所の占有権又は使用権限に基づいて、右事務所への立入禁止と業務妨害禁止を求めた事案である。

一  争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実

1  雇用契約関係

被告は、昭和五二年五月一日、原告に雇用され、原告の職員として勤務していた。

2  懲戒解雇処分

ところが、原告は被告に対し、平成元年一二月七日、被告には左記の就業規則三七条四号「勤務成績が著しく不良なとき」に該当する事由があるとして懲戒解雇処分に処した(以下「本件懲戒解雇」という。)。

(一) 専務理事の、「月刊誌の記事掲載禁止の法的問題の研究」、「消費税に関する資料収集と調査研究」について早急にまとめて報告せよ、との業務命令に従わず、故意に職務を放棄し、結局時期を失した。

(二) 再三の交通機関の遅れ等を理由とした遅刻、始末書不提出、有給休暇を超えての休暇を強行した。

(三) 連日、「自己の業務の明確化」、「過去の超過勤務手当を支給せよ。」等と発言し、職場秩序を乱した。

(四) 事毎に原告、上司を中傷、非難する発言を繰り返した。

3  立入禁止、妨害禁止仮処分命令

原告は東京地方裁判所に対し、平成二年一〇月二二日、被告の原告の別紙物件目録記載(略)の事務所(以下「本件事務所」という。)への立入禁止及び原告の職場の事務の妨害の禁止を求める仮処分命令の申立てをなし(同裁判所平成二年(ヨ)第四八八三号立入り禁止等仮処分申請事件)、これに対し同裁判所は、同年一一月八日、「被告は、本件事務所に立入るなどして、原告の右事務所内における業務を妨害してはならない。」との命令を発した。

被告は、右の仮処分命令に対し異議の申立てをなし(同裁判所平成二年(モ)第一五四九二号立入り禁止等仮処分異議申立事件)、これに対し、同裁判所は、平成三年四月三日、右仮処分命令を認可する判決を言渡した。

しかし、被告は、右の判決を不服として東京高等裁判所に控訴をなしたが(同裁判所平成三年(ネ)第一四二六号立入り禁止等仮処分異議控訴事件)、これに対し、同裁判所は、同年一二月二五日、右控訴を棄却する判決を言渡し、これに対し、被告は、さらに上告の申立てをなしたが、上告棄却となった。

本訴は、原告の右仮処分申立事件についての被告の起訴命令の申立て(東京地方裁判所平成三年(モ)第一一二一四号)により提訴された事件である。

4  地位保全の仮処分命令の申立てとこれの却下

他方、被告は東京地方裁判所に対し、本件懲戒解雇が無効であるとして地位保全の仮処分の申立てをなし(同裁判所平成二年(ヨ)第二二八六号)、これに対し、同裁判所は、平成三年二月二八日、被告の右申立てを却下した。

被告は、右決定を不服として抗告をなしたが(東京高等裁判所平成三年(ラ)第一六七号地位保全仮処分申請却下に対する抗告事件)、同裁判所は、同年五月一三日、右抗告を棄却した。これに対し、被告は、更に抗告の申立てをなしたが、却下となった。

5  本件懲戒解雇を有効とする判決

原告は東京地方裁判所に対し、本件懲戒解雇無効確認等の訴えを提起したが(同裁判所平成二年(ワ)第一六一〇一号解雇無効確認等請求事件)、これに対し同裁判所は、平成五年一二月七日、被告の請求を棄却するとの判決を言渡した。

被告は、右判決を不服として控訴をなしたが(東京高等裁判所平成六年(ネ)第一四五号解雇無効確認等請求控訴事件)、同裁判所は、平成六年九月二八日、右控訴を棄却する判決を言渡した。

第三当裁判所の判断

証拠(〈証拠略〉)によると、被告は、本件懲戒解雇がなされた後前記第二の一の3の立入禁止、妨害禁止仮処分命令の申立てに至るまでの略一一か月もの間、専務理事の即時退去の警告を無視して、毎日のように原告事務所を訪れ、午前九時四〇分ないし四五分から、午前一〇時ないし一〇時一〇分ころまでの間、本件事務所の役員室の椅子等に座り込んだりして(但し、原告がこの椅子を平成二年一月に撤去した後は床に新聞紙を敷く等して座り込んでいた。)、本件懲戒解雇は不当であるとか、過去の超過勤務労働に対する給料を支給せよ等と声高に主張し続け、これらのことによって原告の職場の執務環境を乱したこと、被告は、今日に至るも本件懲戒解雇は不当である旨の主張を維持し、原告の被告が今後本件事務所に立入り業務妨害行為に及ばないのであれば本訴を取下げてもよい旨の意向を示しているにもかかわらず、この意向に従おうとせず、本訴は不当である旨を主張して争っていることを認めることができる。

右認定事実によると、被告が本件事務所に座り込んで本件懲戒解雇は不当である等と声高に主張し続けて原告の職場の執務環境を攪乱したのであるから、このことは原告の本件事務所の占有権限及び管理権限を侵害するものであるということができ、従って、原告は被告に対し、これらの行為の差止めを求めることができる。

被告は、本訴請求は信義則違反ないし権利濫用であるとか、二重提訴で不適法である旨主張するが、これらはいずれも独自の見解に基づいた主張であって採用できない。

また、被告は、被告が本件事務所に赴いたのは本件懲戒解雇理由について原告から説明を求め、話合いをするためであった旨主張するが、前記認定の被告の原告事務所における行為態様・方法は社会的相当性の範囲を超えたものであって、到底許されないから、被告の右主張も採用できない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 林豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例